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東京地方裁判所 昭和32年(レ)531号 判決

控訴人 田尻光三郎

被控訴人 服部均

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人主張の請求原因は、次のとおりである。

一、昭和二九年頃、被控訴人の弟である訴外服部徹は東京都中野区千光前町二五番地の三宅地二三坪六合五勺及び同番地の九宅地五三坪四合二勺を所有しており、訴外小池婦美子は右土地の借地権を有し、右宅地上に家屋番号同町六三番木造瓦葺平家建居宅一棟建坪二四坪四合三勺(実測木造トタン葺二階二戸建居宅一棟建坪三六坪、二階一五坪)(以下、本件家屋という)を所有し、かつ占有していたが、当時徹は婦美子に対し、右建物収去土地明渡の訴を提起し、東京地方裁判所昭和二九年(ワ)第四一二六号事件として係争中であつた。

二、被控訴人は、昭和二九年六月三〇日頃、日本興業短資株式会社から、小池婦美子を債務者とし、その夫小池周一郎を連帯保証人とする貸金債権五〇万円及び利息損害金債権一七〇万円を譲り受け、同年一〇月二日右小池両名に対し強制執行をした。

三、ところが、昭和二九年一一月頃、訴外山口省一郎が右小池両名の代理人として服部徹を訪ね、徹及び被控訴人対小池両名間の右の紛争事件を一括示談にして貰いたいと申入れ、種々折衝の末同年一二月一五日徹及び被控訴人対小池両名間において次のような和解が成立した。

1、小池婦美子は本件建物を二五万円で服部徹に売渡すこと。

2、被控訴人は小池婦美子に対する債権二二〇万円の内金二五万円を右服部徹の建物買受代金の支払に充当し、残金は婦美子が本件建物を明渡したとき放棄すること。

3、婦美子は徹に対し和解契約書調印後速やかに本件建物の所有権移転登記手続をなし、かつ、これを明渡すこと。

4、徹は小池両名に対し和解金として一〇万円を支払うこと。

5、本件建物の賃借人永田譲等に対する賃貸借契約は徹が承認すること。

四、そして、被控訴人及び徹は昭和二九年一二月一七日右和解契約を履行し、同日小池婦美子は服部徹に本件建物の所有権移転登記手続をなし(たゞし、受付は翌一八日となる)、同建物の引渡を終えた。

そして、服部徹は同月一八日本件建物のうち西側一戸建坪二〇坪二合二勺五才(原判決中一八坪八合五勺とあるはあやまり)二階七坪五合のうち、当時空室となつていた離れ四坪八合五勺(以下、本件離れという)に応接セツトその他の諸道具を入れてこれを現実に占有した。

五、被控訴人は昭和三〇年一月一八日服部徹から本件建物を譲り受けると共に、本件離れの明渡を受けてこれを占有した。ところが、控訴人は同年五月一八日被控訴人不在中に本件離れに侵入し、被控訴人所有の物件を何れかへ搬出し、被控訴人の本件離れに対する占有を侵奪した。

六、よつて、被控訴人は控訴人に対し、占有権に基き本件離れの占有回収を求め、択一的に、所有権に基き本件離れの明渡を求める。

右に対する控訴人の答弁は、次のとおりである。

一、請求原因に対する認否

第一項の事実は認める。

第二項の事実は認める。たゞし、債権の実際の価額は約二四万円である。

第三項のうち、山口省一郎が被控訴人主張の頃小池両名の依頼をうけて被控訴人及び服部徹と示談の折衝をしたことは認めるが、和解契約が成立したことは否認する。

第四項の事実は否認する。たゞし、被控訴人主張の所有権移転登記の存することだけは認める。

第五項のうち、控訴人が昭和三〇年五月一八日本件離れの占有を開始したことは認める。その余の点は否認する。

二、控訴人の主張

(イ)  控訴人は被控訴人の占有を侵奪したことはない。

控訴人は、昭和三〇年五月一八日、本件建物の所有者でありかつ占有者であつた小池婦美子の代理人小池周一郎より本件離れを賃借し、適法に占有の移転を受けたものである。

被控訴人が本件離れの占有を取得したという昭和三〇年一月一八日頃は、債権者服部徹、債務者小池婦美子外四名間の東京地方裁判所昭和二九年(ヨ)第一六三八号占有移転禁止仮処分の執行中であり、右仮処分の執行調書(乙第一号証)によれば、本件離れを含む本件建物の階下全部は小池周一郎が占有していたことが明らかである。従つて、被控訴人が本件離れの占有を取得する筈がないから、被控訴人の占有権の主張は失当である。

なお、被控訴人は、昭和三〇年一月中旬頃、小池周一郎が占有していた本件離れに無断で侵入し、ここに被控訴人の柳行李一個を持ち込んだことがあつたが、小池周一郎が直ちに異議を述べたところ、被控訴人は翌日頃右行李を持ち帰つたことがある。従つて、仮りに被控訴人の右の行李持込みをもつて本件離れの占有とみても、占有は不法侵入であるから、これに基く占有回収の請求は失当であり、しかも、被控訴人は侵入の翌日頃その占有を自から放棄しているものである。

(ロ)  本件離れは被控訴人の所有ではない。

本件建物は、小池周一郎が昭和二六年九月頃訴外内藤長一から贈与を受け、昭和二七年五月二二日妻小池婦美子名義で所有権取得登記を了したものであつて、現に小池婦美子の所有である。

被控訴人兄弟と小池夫婦の間に被控訴人主張のような訴訟上の紛争があり、訴外山口省一郎が両者間の斡旋にあたつたことは被控訴人主張のとおりである。小池周一郎は山口の仲介により昭和二九年一〇月二一日頃から同年一二月一六日頃までの間に数回服部徹と会談し、種々折衝を重ねた結果、

1  被控訴人は小池夫婦に対する金銭債権を放棄すること。

2  小池婦美子は本件建物のうち既に服部徹に賃貸中の部分(東側半分)を分筆の上服部徹に無償で譲渡すること、

3  服部徹は前記建物収去土地明渡請求訴訟を取下げること。

との話合ができた。

ところで、山口省一郎と服部徹の両名は同年一二月一七日小池宅を訪ね、周一郎に対し、「訴訟の取下に必要だから委任状に署名押印し、かつ印鑑を渡して貰いたい。取下以外には絶対使わない。」というので、周一郎は山口等の言を信じ、委任状が取下に必要であり、印鑑も取下以外には決して使用しないものと誤信して、山口の用意してきた委任状三枚に婦美子及び周一郎の署名押印をなし、かつ、婦美子の印鑑を山口に交付した。しかし、服部、山口の両名は裁判所へは行かず、直ちに東京法務局中野出張所附近の司法書士田口一男方へ赴き、小池婦美子の印鑑を冒用し、右司法書士に依頼して、小池婦美子名義の服部徹に所有権移転登記申請の代理権を授与する旨の委任状一通を偽造し、更に所有権移転登記申請書を作成して貰い、これに山口が別の機会に預り保管中の印鑑証明書及び服部徹が第三者を経由して入手していた登記済権利証を添付し、以つて翌一八日、同出張所同日受付第一九一七九号をもつて同月一七日売買を原因とする服部徹のための所有権取得登記手続をしたものである。従つて、右登記は無効であり、全体的にも本件離れをふくむ西側半分の本件建物の所有権が服部徹に移転すべきいわれは全くないのである。従つてまた徹から本件建物を買受けたという被控訴人も亦本件離れの所有権を取得すべきいわれがない。

証拠関係は次のとおりである。

被控訴人は、甲第一ないし第七号証、第八号証の一ないし三、第九号証、第一〇号証の一ないし四、第一一、第一二号証を提出し、原審及び当審証人服部徹、原科由江、原審証人服部つる子の証言及び原審及び当審における被控訴本人の陳述を援用し乙第一、第二号証、第七号証、第九号証の成立を認め、第三ないし第六号証の成立は不知、第八号証は公証人の確定日附部分のみその成立を認め、その余の部分の成立は不知と述べ、

控訴人は、乙第一ないし第九号証を提出し、原審及び当審証人小池周一郎(原審一回、当審二回)、当審証人山口省一郎、永田譲の証言を援用し、甲第一ないし第三号証、第七号証、第九号証、第一〇号証の一ないし四、第一一、第一二号証の成立を認め、その余の甲号証の成立は不知と述べた。

なお、当事者双方は、乙第九号証の和解契約書は同一のものが四通あつて関係人が署名押印後に四通とも服部徹に引き渡し徹から小池周一郎に返還され、四通とも小池周一郎の手裡にあることは争わないと述べた。

理由

まず、占有回収の請求について判断する。

被控訴人は、服部徹が昭和二九年一二月一七日小池婦美子から本件家屋の引渡を受け、翌一八日本件離れに応接セツトなどを入れてこれを現実に占有し、次いで、被控訴人は昭和三〇年一月一八日服部徹から本件離れの明渡を受けてこれを占有したと主張し、原審及び当審証人服部徹、原科由江、原審証人服部つる子並びに原審及び当審における被控訴人はいづれも右主張に副う供述をしているが、これらの証拠は原審及び当審証人小池周一郎、当審証人永田譲の各証言に対比してにわかに措信し難く、かえつて右の各証言によると、次の事実が認められる。

1、小池周一郎は、昭和二九年一二月当時、本件離れの戸締りをし、出入口の襖戸を締めて外側から南京錠をかけておき、その鍵は自分で持つていた。右襖戸は蝶番で建物に打ちつけてあつて、外部からは本件離れに立ち入ることのできない状態にあつた。

2、昭和三〇年一月上旬頃、服部徹や被控訴人は、小池周一郎に無断で同人の施錠しておいた前記襖戸の蝶番を取りはずして本件離れに徹所有の応接セツトその他の物件を持ち込み、数日后に被控訴人の姉の原科由江等がさらに若干の荷物を持ち込んだが、被控訴人等は応接セツトや荷物を持ち込んだだけで、本件離れを使用するようなことはなかつた。

3、小池周一郎は当時四国へ旅行中であつたが、旅先で被控訴人等が無断で本件離れに応接セツト等をはこび込んだ旨の連絡をうけ、数日后に帰京すると直ぐ本件離れに行き、被控訴人等の持ち込んだ右物件を中においたまま取りはずされた襖戸に新しく蝶番を打ちつけ、新たに雨戸にも内側から鍵をとりつけて本件離れを閉鎖してしまつた。その後、小池が昭和三〇年五月一八日控訴人に対し本件離れを賃貸し、控訴人がこれを使用するまで誰もここに入つたものなく、周一郎が施錠したままであつた。

このように認められるのであつて、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

右の認定事実によれば、本件離れは小池周一郎の占有下にあつたものであつて、被控訴人等は周一郎に無断で施鍵を排して一時応接セツト等の物件を持ち込んだにすぎないのであるから、右の物件の持ち込みによつて本件離れに対する小池の占有が失われ、被控訴人等が新たな占有を取得したと認めることは無理であつて、被控訴人等の右の行為は小池の占有に対する妨害行為の範囲を出でないものと認めるのが相当である。従つて、被控訴人の占有を前提とする占有回収の請求はすでにこの点において失当である。

仮りに、前記物件の持ち込みによつて被控訴人が本件離れの占有を取得したものとみるとしても、被控訴人の占有は小池の占有を侵奪して取得されたものであるから小池が新たに本件離れに施錠して被控訴人の占有を排除したことは、小池の原占有の回復に外ならない。占有侵奪者の占有であつても、その占有が時の経過により又は占有の公然性によつて事実上の社会的対物秩序としてすでに確立されたものと認むべき場合にはそれが被侵奪者によつて再び侵奪され、回収された場合でもなお占有回収の訴による保護を受けうべきものと解するのが相当だろうが、本件の場合には前段認定のように被控訴人等の占有期間は僅か数日間の短期間であり、しかも空室に物件を搬入しただけで事実上これを使用していたわけでもなく、その占有と称すべきものは強暴隠秘な占有にすぎないのであるから、被控訴人の本件離れに対する占有は社会的な対物秩序としてすでに確立をみたものとはいいがたい。従つてその占有が被侵奪者たる小池によつて再び侵奪されたからといつて、占有回収訴権によつて被控訴人を保護すべき必要はないものといわねばならない。

右いづれの点からしても、被控訴人の占有回収の請求はその理由がない。

次に所有権に基く明渡請求について判断する。

被控訴人の弟、服部徹から小池婦美子に対して敷地所有権に基いて本件家屋収去の訴が提起され、かつ被控訴人から小池婦美子とその夫、小池周一郎に対して合計二二〇万円相当の譲受債権に基いて強制執行が行われていたこと、訴外山口省一郎が右服部兄弟と小池夫婦間の右紛争について斡旋の労をとつたことは当事者間に争がなく、この事実に原審及び当審証人服部徹及び当審証人小池周一郎(第一回)の証言によりその成立を認めうる甲第五、第六号証を綜合すれげ、右被控訴人兄弟と小池夫婦の間には昭和二九年一二月一五日被控訴人主張のような和解契約が成立し、本件家屋の所有権は小池婦美子から服部徹に移転したものと認めるのが相当であるように思われる。しかしながら、本件にあらわれた他の証拠からすればこうした認定を妨げる特別の事情がある。

すなわち、

(1)  前記甲五号証の和解契約書は成立に争のない乙第九号証の和解契約書と全く同一のものである。そして、当審証人服部徹及び小池周一郎(第一回)の証言によれば、乙第九号証は昭和二九年一二月一四、五日頃作成されたものであつて、甲第五号証は同月一七日に作成されたものであることがわかる。乙第九号証は四通作成され、関係人たる服部徹、被控訴人、小池婦美子及び小池周一郎が調印後いつたん四通とも服部徹に引渡され、さらにこれが徹から周一郎に返還され現に四通とも周一郎の手裡にあることは当事者間に争がない。もし、被控訴人のいうように、昭和二九年一二月一五日に甲第五号証記載の和解契約が真実関係人間に成立していたものとすれば、乙第九号証は右和解契約の成立を確証するために作成されたものとみる外はない。そうだとすれば、四通作成された和解契約書が全部徹に引渡されたこともおかしなことだし、徹がいつたん受取つた和解契約書を四通とも周一郎に返したことは尚更らおかしなことである。このように契約書がいともむぞうさに取り扱われていることは当該の契約書が関係人にとつて格別の意味をもたないものであつたとみなければ、とうてい説明がつかないだろう。

(2)  証人小池周一郎の当審における第一回証言及びこれによつてその成立を認めうる乙第三ないし第六号証によると、小池周一郎は昭和二九年一二月一七日服部徹と山口省一郎の求めにより前記甲第五号証の和解契約書に調印してこれを同人等に交付し、かつ、訴訟取下の手続をする上に必要だからといわれて婦美子の印鑑を渡し、和解金として一〇万円を受取つたが、同人等の言動に不審をいだき、翌一八日東京法務局中野出張所に赴き登記関係の調査をしている。そして、調査の結果一七日に徹から本件家屋に対する所有権移転登記の申請がなされ、既に受理されていることを発見し、出張所長に対し右の申請書は偽造であることを告げて善処方を要望し、所長の指示によりその旨の上申書を提出し、その后徹を詐欺罪で告訴していることが認められ、他にこの認定を左右すべき証拠はない。

もし被控訴人のいうように、関係人間に真実甲第五号証記載のとおりの和解契約が成立していたものとすれば、右和解条項には本書調印后速やかに本件家屋について売渡登記手続をすることと定められているのであるから、右和解契約書に調印し、和解条項どうり和解金として一〇万円を受領した周一郎が翌一八日に登記所へ行つて登記の有無を調べ、徹のした所有権移転登記の申請に異議を述べるなどということは特別の事情のない限り容易に首肯できないことである。そして本件にあらわれた証拠関係の下では、周一郎がいつたん和解に応じながら後に変心して打ちこわしにかかつたとか、初めからふくむところがあつたというような特別の事情は何にも認められない。

(3)  当審証人山口省一郎の証言及びこれにより真正に成立したものと認める乙第八号証によれば、山口省一郎は小池周一郎の申入れに応じて東京法務局中野出張所長に対して昭和三〇年一月一四日附で徹のなした前記所有権移転登記の申請が不実のもので犯罪を構成するものである旨の上申書を提出していることがわかる。

右に判示した事実はいづれも甲第五号証の和解契約書の証明力を疑わしめるに足る顕著な事実である。当裁判所は、右の事実と原審及び当審(第一回)における証人小池周一郎の証言及び当審証人山口省一郎及び服部徹の証言の各一部並びに前乙第三ないし第六号証、同第八号証を綜合して本件家屋をめぐる和解契約のいきさつ及びその所有関係については次のように判断するのが相当であると考える。すなわち、被控訴人兄弟と小池夫婦の間には冒頭に判示したように家屋収去土地明渡訴訟事件と強制執行事件があつて、山口省一郎が両者間を斡旋した。被控訴人側は徹が被控訴人をも代理し、小池側は周一郎が婦美子をも代理して、省一郎を交えて徹と周一郎の間に交渉が重ねられた。そして結局、婦美子はその所有に係る本件家屋のうち現に徹に賃貸している部分、すなわち本件家屋の東側半分を徹に譲渡し、徹は前記訴訟を取下げ、被控訴人は強制執行を解放し、かつ、その基本となつた前記譲受債権(被控訴人は二五万円で譲受けたものである)を抛棄し、被控訴人側から小池側に対して示談金として一〇万円を交付して解決することで話合がついた。周一郎は徹に譲渡すべき本件家屋の東側半分と婦美子の所有に留保すべき本件離れをふくむ西側半分を分筆登記した上で東側半分を明渡し、その上で示談金一〇万円を受取るつもりでいた。ところが徹は老年の父や兄の被控訴人に見せて安心させたいからといつて、乙第九号証及び甲第五号証の和解契約書を作つて周一郎の調印を求めた。右和解契約書には本件家屋全部を徹に譲渡し、その旨の所有権移転登記をすることになつていて、その点で実際の話合とはちがつていたが、すでに実質的な話合もついており、父や兄に見せるだけの書類なら差支えあるまいと考え、かつ山口の口添えもあつたので、深かく考えずに乙第九号証及び甲第五号証の和解契約書に調印し、和解金として一〇万円を受取つた。これを要するに甲第五号証の和解契約条項のうち本件家屋全部を金二百万円で徹に売渡す旨の冒頭の条項は当事者の合意に基づかないものであつて、本件離れをふくむ西側半分は譲渡の対象になつていなかつたものである。

このように判断するのが相当であつて、山口、服部両証人の証言のうち右の認定に反する部分は採用しない。他に以上の認定を左右するに足る確証はない。従つて、本件離れが甲第五号証記載の和解契約によつて徹の所有に帰したことを前提とする被控訴人の所有権に基く明渡請求は、爾余の判断をするまでもなく、その理由がないものといわなければならない。

右のとおり被控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを認容した原判決は不当であつて本件控訴は理由がある。よつて、原判決を取消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井良三 小堀勇 石川良雄)

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